9月18日付「日経新聞」夕刊は、「イラク内務省は17日、米国の民間軍事会社大手のブラックウォーターに対し、イラク国内での活動停止を命じた」「前日にバグダッドで起きた銃撃戦の際に市民ら11人を殺害したためとしている。同社はイラクで民間人護衛のほか基地警備にもあたっており、活動停止により治安面に影響が広がる可能性がある」と報じている。
イラク戦争の特徴は民間軍事会社なしでは成り立たないことだ。当初の数千人が、今では3万~4万人に増えている。米軍を補完する傭兵が兵站任務、基地警備、要人警備、イラク政府軍育成等占領政策に不可欠の仕事をやってきた。
中でもブラックウォーターは、イラク戦争を代表するような会社だ。兵士の10倍、100倍以上の高給でスタントマンや熟練兵士を引き抜いてくる。ノース・カロライナ州に広い本拠地を持ち、空港も飛行機も自前で各種軍事訓練をやり、数千人をイラクとその周辺に送り続けている。ファルージャの激戦は、この会社の傭兵が地元の住民の怒りに触れて橋桁に死体を吊されたことから始まっている。アブグレイブ刑務所での虐待行為にも多数がかかわったのに、なんの処分も受けていない。ゲリラ部隊の襲撃を受けたときには米軍特殊部隊到着前に自前の救出ヘリを送り、4時間も交戦している。そのヘリも撃墜されるとか、いままでに200人が死亡しており、軍事民間会社の中でも突出している。社長のゲーリー・ジャクソンは「この18カ月で600パーセントの成長を遂げた」とうそぶいている。
今回問題になったのは、外交官の護衛のため、マンスール市街で車が近づいてきたから撃ったと言っているが、過剰防衛というより、倫理観の欠如だという。ライス国務長官は、「子どもが乗っているのを知っていて撃ったのは許せない」とテレビで述べ、イラク・マリキ首相に電話をかけ、「遺憾の意」を表明している。今までは子どもが乗っていようと、女性だろうと好き勝手に発砲して住民を多数死傷させてきたのに、ポーズだけでも取らざるを得ないところにまで追いつめられているのだ。
軍事民間会社無しに戦争の続行はできない。ブッシュによる米兵3万増派の新戦略も、先行してきた同数の傭兵によって土台が準備されてきた。それに国外退去命令で、いよいよ進退きわまったと言える。
かつては9千人いた英軍が、バスラの基地(宮殿)に、シーア派のゲリラから次々と迫撃弾を撃ち込まれ、この9月には空港の基地にまで撤退した。この敗勢は挽回できる状況ではない。米軍がこれを埋めることはできないから、イラク南部は完全に空白地帯となっている。
ブラックウォーターこそ、イラク戦争の不正義を象徴している。11月4日に日比谷で日・米・韓国際連帯の集会が行われる。No War の声をあげ、侵略軍をイラクから叩き出そう。