(読売新聞) - 12月1日3時10分更新
【ワシントン=貞広貴志】ブッシュ米大統領は30日、メリーランド州の海軍兵学校でイラク戦争の現状について演説し、「イラク軍は真の進歩を遂げた」と強調し、米軍が治安維持の任をイラクに引き渡す環境が整いつつあるとの認識を示した。
開戦から2年半を超え、米国内で厭戦(えんせん)気分が急速に広がる中、撤退時期の特定は避けつつ戦争の「幕引き」の展望を初めて国民に示したものだ。ただ、イラク部隊が近い将来にひとり立ちすることには、米軍内からすら悲観的な見方が出ている。
大統領は演説で、「2年半の間には停滞もあった」とイラク治安部隊の育成が計画通りに進まなかったことを認めた上で、最近は訓練法などを改善したことでイラク部隊の能力が飛躍的に向上し、兵員数だけでなく管理下におく地域の面積も広がったことを明らかにした。これを踏まえ、「イラク部隊が経験をつむにつれ、われわれは戦闘能力を失うことなく、兵員を減らすことができるようになる」と駐留米軍の削減・撤退の道筋を示した。
一方で、米軍撤退の時期・規模については、「現地の治安状況と(米軍)司令官の判断に基づいて決める。ワシントンの政治家による人工的な予定表ではない」と述べ、早期撤退を要求する民主党の動きを厳しく批判。また、「私が最高司令官である限り、米国は車爆破犯や暗殺者の面前で逃亡することはない」とも述べ、イラクでのテロ組織撲滅と民主政権樹立という目標の達成まで米軍駐留を続ける方針を改めて示した。
ホワイトハウスは今回の演説を、「勝利に向けた計画を説明する一連の重要演説の第一弾」(マクレラン大統領報道官)と位置づけており、12月15日のイラク国民議会選挙までの半月間、大統領自身が集中的にイラク戦勝利の道筋を説明する。
また、ホワイトハウスは30日、「イラクでの勝利に向けた国家戦略」と題する政策文書も公表した。「来年中の軍の態勢変更を保証はできないが期待する」と、慎重な表現ながら今後1年間での米軍縮小方針を打ち出した。敵の実態を《1》民主化移行を拒むスンニ派中心の「拒否派」《2》サダム主義者《3》国際テロ組織アル・カーイダ一派――の組み合わせと分析、ここでもイラク部隊の強化で対処する重要性を指摘した。
ブッシュ政権がここに来て国民向け説明に力を入れ始めた背景には、各種世論調査でブッシュ大統領とそのイラク政策への支持率が30%台まで低下し、民主党などが「戦争は誤りだった」と声高に主張し始めた事情がある。
だが、大統領の主張の核心をなすイラク治安部隊の能力強化については、疑問符が付く。著名な評論家ジェームズ・ファローズ氏は月刊誌「アトランティック・マンスリー」最新号で、「近い将来に信頼すべきイラク治安部隊が生まれる兆しはない。イラク軍を訓練し、秩序ある撤退をするためには、米軍は長期にわたり駐留を続ける必要がある」と結論付け、反響を呼んだ。