イラクでまたも新しい戦争が始まった。
2月21日夜、トルコ軍は戦闘機やヘリコプターの援護の下、戦車隊を先頭に3千人の地上部隊をイラク領内に侵攻させた。「極寒の急襲」という作戦名で、最低でも15日間の予定と発表した。
これまでもトルコ軍はイラクとの国境に10万人を配置し、「PKKの拠点を壊滅する」とイラク北部の国境地帯を度々越境爆撃してきた。PKKとは、トルコからクルドの分離独立を掲げるクルド労働者党の名称で、国境地帯で活動している。今回、アメリカの事実上の支援のもと、公然と国境を越えたのだ。
ところが、初日から作戦は失敗した。ハツカリで待ち伏せていたPKKと交戦、トルコ兵はここで12人が戦死している。橋を渡るときにその橋を爆破され、複数の兵士が人質に取られた。トルコ軍はPKK戦士を23人殺したと発表しているが、PKKの側は、損害はそれほど多くないし、捕虜にした兵士を人道的に扱っていると余裕さえ見せている。
日本の新聞はどこも、トルコ戦車隊がもうもうたる土煙をあげてイラク国境近くを移動する大きな写真を掲げ、「PKK壊滅図る」とその意図を報道している。
2月23日付朝日新聞は「米軍から情報提供などの協力を得て、昨年12月から断続的に小規模な越境作戦を行ってきたが、本格的な地上部隊の投入は初めて」と伝えている。 朝日新聞は「トルコ、3千人地上侵攻」と報道、他紙では1万人説も流され、数の違いはあるが、トルコ軍が米軍の情報で作戦を行ったとしている点では共通している。
米軍と情報を共有し、PKKの拠点を空爆し、今回は地上部隊でその一掃を狙ったのだが、予定より早く撤退した。「その目的は一定程度達成できたので撤退した」とトルコのエルドアン大統領は言う。
トルコ軍は、2月21日から29日までの9日間の作戦でトルコ兵士24人が死に、PKKは230人以上が死んだと発表した。拠点を根絶していないのでこれからも攻撃するとも言っている。実際には、雪深い土地での山岳戦、吹雪に見舞われヘリコプターが墜落するなど、土地の事情に精通したPKKゲリラに翻弄されたというのが真実だったと言えよう。殺された人の大半は地元住民だ。
「PKK壊滅」どころか、戦闘はいっそう拡大した。キルクークではクルド人民の抗議デモがまき起こった。クルド地域政府もトルコに抗議し、トルコへの石油送油管を閉鎖した。ペシュメルガ(クルド地域政府軍)とも衝突しかねない情勢になったのだ。
トルコは「PKK一掃」を掲げているだけでなく、すこしでも、クルドの独立につながる動きは絶対に認めない。キルクーク油田を擁するクルド自治政府などができたら、トルコ内にいるクルド人の独立運動はおさえきれなくなるからだ。今回もトルコ最大の都市イスタンブールでクルド人グループが「イラクのクルド人への戦争反対」を掲げて集会デモをやっている。トルコ東部クルド人居住地区にある都市ディヤルバクルでは2月26日1万人以上が参加する大規模な抗議集会を開き、国会議員や市長も参加している。