アメリカ・ブッシュ政権は、いやアメリカ帝国主義はといった方がより正確になるだろうが、危機がきわまり、展望を失っている。住宅バブル崩壊に端を発する金融不安に対処して、景気を保持しようとするFRBによる金融緩和でだぶついた資金が原油への投機に向かい、1バレル100ドルを超えてまだ進む勢いである。
米証券大手メリルリンチが巨額の有価証券評価損を公表、7~9月期で赤字に転落して10月末CEOが辞任した。金融大手シティグループでも関連資産の下落が止まらず、マイナスの連鎖が広がっている。
ドル安、原油高は世界経済の基軸をなしてきたドルの信認を揺さぶっている。原油1バレル100ドルというが、ユーロ換算すれば60ユーロでありその額は低くなる。原油が上昇を始めた2002年には1ユーロがほぼ1ドル。原油価格は20ドル台かつ20ユーロ台。原油価格は確かに上昇しているが、ユーロで表示すれば「それほど」でもない。
今後価格表示をドルからユーロに変える動きが強まると予想されるが、それは産油国のドル離れを意味する。基軸通貨ドルの位置が保てなくなるということだ。
先日中国がアメリカの石油会社ユノカルを買収しようとしたが、アメリカはそれを国会決議で阻止した。サウジやクウェートのオイルダラーはニューヨークの銀行に預けられ、飛行機や武器を売りつけて資金は環流していたが、今はそうもいかなくなっている。
オイルマネーや貿易黒字で蓄積された外貨準備などの国家資金を用いて海外投資を行う政府系運用機関(SWF)についてモルガン・スタンレーが07年5月にまとめた規模順位はリアルなものであり、現在の統計だったらもっとすごい数字になっていることは明らかだ。
アラブ首長国連邦(UAE アブダビ投資庁) 8750億ドル
シンガポール(テマセク、政府投資公社) 4300億ドル
ノルウェー(政府年金基金) 3000億ドル
中国(外貨投資機構) 3000億ドル
サウジアラビア(複数の公的ファンド) 3000億ドル
ロシア(安定化ファンド) 1000億ドル
経済破綻していたロシアが原油高で生き返り、アメリカの裏庭だった南米でブラジルが大きな産油国となり、ベネズエラと共に反米路線をとっていることはこの統計以後の大変化と言えよう。